「上総掘り」とは、昔は農業用水不足で苦しんでいたこの地域で発達した井戸掘りの技術です。
技術の原型は中国から伝わった「突き掘り」とされており、様々な人々による度重なる改良によって上総掘り技術は完成されていきました。
わずか3〜4人の少人数で掘れることや、竹や木材を道具にすることによるコストの安さが魅力で、一本目の井戸は専業の井戸掘り職人に依頼し、その手伝いをしながら技術を習得し、自作の道具でみようみまねで井戸を掘っていったという例もあるような、簡単で有効な井戸掘り技術として当地域で発展していきました。
現在日本で、新たに井戸を掘る必要性はあまりありませんが、上総掘りの技術は海外で認められ、青年海外協力隊や国際協力事業団などの活動を通して、水不足に悩むアジア・アフリカの地域に広く取り入れられています。
「上総掘り」は「自噴井戸」と呼ばれる井戸を掘る為の技術の一つです。
ポンプなどを使用しなくても地下から水が湧き出る井戸のことを「自噴井戸」と呼びます。
君津市、特に小糸川・小櫃川流域ではこの「自噴井戸」が数多く存在しています。
君津市の地層は、砂利・砂・粘土の層からなっており、北西(東京湾)に向って傾いています。
水は高いところから低いところに向かって流れますが、北西に向かって傾いたこの地域では、地下へしみ込んだ雨水も、砂利や粘土層に挟まれた砂の層を通って北西に向かって流れてゆきます。
地下に流れている水には、この傾斜による流れや、砂や粘土の重みによって圧力がかかっており、低いところで穴を掘ると、その圧力に圧されて自然と水が噴き出すのです。
君津市が実施した平成13年7月の市街化区域を除く君津市全域の井戸の調査によると、小糸川流域で621か所、小櫃川流域で721か所、合計1342か所の自噴井戸が確認されております。
その内、小糸地区459か所、小櫃地区294か所、久留里・松丘地区369か所になります。
これらの内、1173本(全体87%)が上総掘りで掘られた井戸です。
その他は昭和45年以降の機械掘りによる井戸と横井戸や自然湧水によるものです。
上総掘りと地下水についてマンガ形式でわかりやすく説明されています。
本書は君津市発行で、市内小学校図書室に所蔵されております。
また、君津市役所でもお求め頂けます。
B5判 75ページ
約100年前に、外国で出版された上総掘りを紹介した本「KAZUSA SYSTEM」が1世紀を経て、平成21年3月に、上総掘りを記録する会(鈴木欣也会長)により、日本語対訳本「対訳・解説 上総システム」として発刊されました。
「英国図書館にも所蔵されながら、国内ではほとんど知られてない貴重な本」(千葉日報平成21年4月28日号記事)であったため、同会が、訳文と詳細な解説を付した待望の1冊です。
「KAZUSA SYSTEM」は1902年(明治35年)に、千葉尋常中学校(県立千葉高校の前身)の元英語教師イギリス人 F・J・ノーマン氏により、インドで出版されました。
ノーマン氏は1888年に来日し、たまたま、住まいの近くで井戸掘り職人の作業に興味をひかれ、その道具の簡易さと、その成功率の高さから、従来の西洋技術にとってかわり、生まれ育ったインドでの水不足問題解決に大きく寄与すると確信されました。その後、調査の末、日本で執筆し、この著書で上総掘りの技術の効用をインドの人々に説かれたようです。
本書の中には、西洋技術の井戸掘り設備が当時、7,000〜8,000円ぐらいに対して、上総掘りは一式で50〜70円で、また、作業にかかる修理費、維持費、運転費などの費用やその他、上総掘りの優位性の記述もあり、興味深いものです。
原著者 F・J・ノーマン
翻訳 平野由紀子 解説 上総掘りを記録する会
特別寄稿 メアリー・バッセンディン(著者 F・J・ノーマンの姪)
アレキサンダー・ベネット「F・J・ノーマンの経歴と日本での活動」
B5判 102ページ
この出版は「君津市文化のまちづくり市税1%支援事業」を利用して実施されたものです。
詳しくは上総掘りを記録する会へお尋ねください。
事務局長 新井孝男氏 TEL/FAX 0439-52-2143
民俗文化伝承・活用事業報告書「上総掘り-伝統的井戸掘り工法-」より抜粋